白隠禅師法語全集 第6冊 八重葎 巻之二

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十いくつもの蘇生譚・霊験譚をくどくどと語り終えた後、白隠禅師は最後に「これまで話して来たことはすべて絵空事で、取るに足らぬものである」と、一転して否定するのである。そして、実はもっとありがたい大霊験画ある、それは丹田に気をこらし坐禅工夫し、とにかく見性することである、と勧めるのである。そして、一旦見性した暁には、決してその悟りに安住するのではなく、さらに四弘請願輪に鞭うって、「上求菩提、下化衆生」の、永遠の「悟後の修行」をせよ、と勧める。ここに本書を著わした禅師の真の意図があろう。
本書は一見したところ、伝統的な因縁物語り、地獄話のようではあるが、禅師が真の上士に求めているのは、あくまで「菩提心」「四弘請願」「利他行」といった菩提道の課題に他ならないのである。
芳澤勝弘 四六判 350頁 2000.3.27 発行
ISBN978-4-88182-136-7 C0015

【本文より抜粋】
宝暦三年の春、沼津の東、黒瀬の渡しの南に二ツ谷という所があるが、そこのある家の十八歳になる男子がにわかに煩い出した。二三ヶ月病んでいたが、医者も祈祷も験(しるし)なく、ついに息をひきとった。家の者が泣き悲しんでいる所へ、日頃出入している修行僧が二人やってきて、「お悲しみになるのはもっともなこと。けれども、いくら嘆き悲しんでも、少しも病人のためにはなりません。現当二世のためには、皆さんで十句経をお誦みになることです」と、線香をともし、声たかだかと誦み始めたので、みなもその通りだと同音に誦み出した。すでに百遍にもなったと思われる時、不思議なことに、死んだはずの病人がむっくりとはね起き、にっこり笑って・・・・―本文「沼津二ツ屋の若者の物語」より
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