トップページ » 2010年12月 3日

『禅文化』214号 技を訪う -仕立て屋 千浪-




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日々の生活で出会った素晴らしい職人さんを、季刊『禅文化』にてご紹介しています。
本ブログでもご紹介させていただきます。
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季刊『禅文化』214号より
“技を訪う―仕立て屋 千浪 坂本多鶴子”   川辺紀子(禅文化研究所所員)


 茶道を始めて十年。親もとを離れ独立して生活するようになって、親や呉服屋に言われるままに仕立てていた着物について、いろいろな意味で“やりくり”ということを考えなくては、この先やっていけないなと気づかされた。それは単に金銭面ばかりではなく、お稽古事とはいえ、十年茶の湯に親しみ、着物と付き合うようになると、それなりに自分のこだわりも出てくるからだ。

 着物や袈裟などは、職人が丹精込めて作った反物から、人が着る物へと生まれ変わる時、その着やすさと見た目の美しさという点で要になるのが何といっても“仕立て”であろう。着物のことが少しずつわかってくるに連れて、「仕立てをしてくれる人と直接話をしたい」という思いが強くなって、まずは一番必要としていた夏用の雨コートを作るための反物を求め、仕立てをお願いできる和裁士を自ら探すことにした。直接和裁士のところへ反物を持ち込むからには、マージンが発生する呉服屋での仕立て代よりは安く、雨コートとなると着物を着た上からさらに着るものなので、なるたけ近所で、仮縫いの段階で着物を着て出かけてゆき、寸法の確認ができること、また、それを嫌がらずに受けてくれるところ……など、多々条件があった。
 インターネットで調べると、呉服屋での仕立て代からは想像もつかないような安値で仕立てを請け負うところもあったりするが、近場ではない上に、寸法をメールなどで伝えるのみでは和裁士の顔は見えないし微妙なニュアンスも伝わらない。着物に詳しい人にさまざまな仕立て屋のことを聞いて、調べてみたり訪れたりするが、どうもしっくりこない上に対応も気に入らない。

 そこではたと思い出したのが、涼しげな暖簾の掛かった一軒の町家。かなり前に自転車で近くを通りかかった際に、「こんなところに仕立て屋があるのか……」と思った記憶があった。確か暖簾には私の好きな千鳥の紋匠があり、その横に「仕立て屋」とだけ印象的な文字が書かれていた気がする。とりあえずは記憶を辿って思い当たる地域を探してみよう……と勇んで出かけた。

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by admin  at 07:30  | Permalink  | Comments (2)  | Trackbacks (0)