トップページ » 2008年1月28日

陶工に号をつける -山寺のある一日-

寒い寒い山寺

この山寺に、二人の青年が突然登って来たのは、もう十年も前のことである。一人の方は、村の若者であった。二、三年前に、お婆さんのお葬式を出したので憶えていた。もう一人の方は、初顔であった。村の青年が言うには、その若者は、青年の奥さんの弟で、出身は大阪。九州は伊万里で修行した陶工だという。姉の縁を頼って、この村に自分の窯を持つことになった。ついては、陶工としての号をつけてほしいと言う。

「しかし、号などというものは、お師匠さんからいただくものじゃないの」。わたしは、ひとまずそう言って逃げた。「号をつけてほしい」と聞き、実は少し緊張したのである。わたしには、子供もなく、弟子なども持ったことがないので、誰かに名前をつけるということをしたことがない。もちろん坊主なので戒名はつけるが、生きている者の場合とでは、やはり違う。死んだ人が、わたしの戒名を背負って、あの世とやらで生きていっているのかは知らないが、この青年陶工は、確実にわたしがつけた号を背負って、これからの陶工人生を生きていくのである。号〈ゴウ〉が、業〈ゴウ〉になったらどうするのだ。そう思うと、なかなか容易には引き受けられなかったのである。

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by admin  at 07:30  | Permalink  | Comments (0)  | Trackbacks (0)