トップページ » 2007年4月16日

「歌から立ち上がる生の気配」

霊鑑寺の椿_衣笠

北冬舎発刊の『北冬』に掲載された、06年6月発刊の、『生のうた 死のうた』の書評をご紹介したい。

「歌から立ち上がる生の気配」

 「短歌は短い詩型であるが、多くの言葉を連ねるよりも深く、あるいは鋭く、生命世界が暗示されることがある。」と「あとがき」にある。世に短歌鑑賞の本や歌人論は多いが、佐伯の『生のうた死のうた』は、たとえば風俗や装飾、遊びでなく、一途に歌を通して、歌人の生の核心に向かおうとする。
 斎藤史、岡本かの子、相良宏、上田三四二、河野愛子、中城ふみ子、岸上大作ら物故歌人を中心に取り上げられた三十五人のなかには、保田典子(保田與重郎の妻)、尾崎翠、多田智満子、田山花袋といった人々が含まれているのも興味深いが、何より、歌が鋭く生と死に切り結び、歌の向こうに歌人の生の気配が濃厚に立ち上がってくるのがじつにドラマチックで、そして豊かなのだ。
 短歌の鑑賞とは、文法を説明したり、短歌史的な見晴らしをもって位置づけることだけではない。もちろん、そういうことを多くの場合前提としているが、一首の歌、一片の言葉に、人間の生の気配を直感し、想像する力、そちらの方が本質的なのだろう。本書の豊かさは、著者のそういう能力と人間への興味と敬意に由来しているのではないか。

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by admin  at 07:30  | Permalink  | Comments (0)  | Trackbacks (0)