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いのちについて思う

先日「硫黄島からの手紙」という話題の映画を見た。戦局の最先端にいて殺し合いの末に命を落す人、弾薬が底を突き戦うことができず自害していく人、敵に投降したにもかかわらず殺される人、そして戦地に愛する人を送って国で待つ人……。戦時中に生きていた人たちのそれぞれの生きざまの集約を見た気がした。重い映画だったが、とてもいい映画だった。

ところで、このところ、子供の自殺、夫婦や兄弟でのバラバラ殺人事件の連続。毎日ニュースを見ていても、次から次へと悲惨な事件ばかりで、どの事件がどの事件かさえわからなくなるほどである。
また、これだけ飲酒運転を警戒されているのに、飲んで乗ってひき逃げ・・・。無責任極まりない。
いったい人の命の重さというものを、どう考えているのだろう。そう思わずにはいられない。
彼らはずっと身近な人の死と向き合わないで生きてきたからではないか。

自坊の檀家のことであるが、篤信家の好々爺がいた。
自身を献体申請しており、そのために万が一の時には遺体がないことになるからと、毎年お正月になると床屋で散髪をしては、これを遺髪にせよと紙に包んで家族に渡しておられた方だ。
その曽孫である当時小2のSちゃんは、このお爺さんのことが大好きで、日頃からいつも手をつないで歩いていた。
ところが、ついにその爺さんも93年の寿命がつきた。死に際に家族が集まり見守る中、Sちゃんは、お爺ちゃんに「私にパソコン買ってやるっていってたのに、買わないで死んだらあかん」と、徐々に冷たくなる手を握って泣いて訴えたそうだ。
お通夜の時、Sちゃんは私に、「お爺ちゃんの暖かい手、だんだん冷たくなっていったんやで」と話してくれた。
自分の死をしっかり見つめていた老人と、それをしっかり受け止めていた幼女の姿なのである。

しかし、かたや、家族が亡くなっても、忌み嫌って子供達を近づけないように避けてしまわれる家庭が多いことも確かだ。
人は息を引き取ると、暖かい手が冷たくなっていく。それを実感として知らないで生きている人がどれだけいることだろうか。
テレビドラマで人が人を殺めるというフィクションを毎日のように眼にしてしまっているのに、人が死ぬということを現実として感じられない人たちが溢れているのだ。

学校教育には任せられない部分、私たち宗教者の手でどうにかしなければならない。
『子育てのこころ』(盛永宗興 著)。読んでもらいたい一冊である(もうすぐカバー一新)。また、一番小さな社会である家庭において、自分と他人の命のことを考えてもらえるような本も考えたい。

by admin  at 07:30
コメント
  1. こんばんは。
    宗興老師の御著作は、親しみやすいものばかりですよね。
    ですよねって、ワタシがそう思ってるだけなんですけど。
    「禅と生命科学」って小難しそうな題名の本のなかでも、老師の書かれたものは読む人にわかりやすく、「ああ、この人はホントに自分が体験したことの裏づけがあってこういうこと言ってんだな」というのが伝わってきます。この本は確か一種の共著(講演録)?なんですが、他の共著者が書いたものはどれもピンときませんでした。

    老師の他の御著作「お前は誰か―若き人びとへ」や「見よ見よ」などもそうですが、結局は、“いのち”ってのはこういうものですっては言えない・表せないけど、少なくとも一般に考えられているような概念を絶しているものだ、と。そんな小さいもんじゃねえぞ、と。多分仰っている。・・・んだと思います。それはそうと、ホントに昨今のニュース見てると現実じゃないみたいですよね。

    蛇足ですが、やっぱり本の題名とかカバー(装丁)、それにサイズとかって重要な要素ですよね。ある本を改訂する際に書名も一緒に改変したら、急に売り上げ部数が伸びちゃった、なんてこともあるらしいですし。

    今回ご紹介いただいた「子育てのこころ」はまだ読んだことがなかったので、是非買って読ませていただきます。(※自分と他人の命のことを考えてもらえるような本←の出版を楽しみにしています)

    by kanno  2007年1月30日 01:09
  2. kanno様 コメントをありがとうございます。
    弊所から発売している宗興老師の御著書は、花園大学での講義録から起したものですので、特に若い世代に読んでいただきたい書籍ばかりです。
    さて、特に最近は、本の題名や装丁に大変気をつかうようになりました。もちろん校正も大切なのですが、プロに外注するほど潤沢でありませんので、内部でがんばって制作しております。
    とても沢山の本が並ぶ書店で、いかに手にとってもらえるかということも、大事な要素だと思っています。
    2月中旬ごろから、子育てのこころのカバーが変わる予定です。お買い上げお待ちしております。

    by 禅文化研究所 E.N.  2007年1月30日 11:31
  3. 命の重さってなんなんでしょうね。人により感じる重さが違うのでしょうか・・・ それって本当に悲しいことですね。 人間は生まれながらに宿命を持ってそれぞれの人生を生きているんですよね。その宿命を他人に断ち切る権利があるのでしょうか。

    自分の人生、宿命、運命を真剣に考え、最後を迎える老人と、それを見つめる幼女のお話にはすごく共鳴し、感動を覚えました。

    私は宗教者でもない一般の人間ですが、これからもこのブログを見て自身のことを振り返りますので、また、色々な出来事をお教えください。

    by T  2007年1月31日 02:23
  4. T様、コメントをありがとうございます。
    こうして一人にでも伝えたかったことが伝えられて幸いに思います。
    この「ブログ禅」、スタッフ数人で一所懸命に毎日更新しています。興味のない話題もあろうかと存じますが、これからもご覧頂ければ頑張り甲斐があります。
    ブログをおもちの方、トラックバックもいただければありがたいです。

    by 禅文化研究所 E.N.  2007年1月31日 09:12
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